公務員から民間企業への転職は、一般的に「厳しい」と言われますが、本当にそのとおりなのでしょうか?
確かに、それぞれの仕事の仕方には随所に大きな違いがありますが、「公務員は民間企業では使いものにならない」という一般論は、間違っていると思います。
そもそも、この一般論自体、昭和の概念なんです。地方公務員が定時で帰るのが当たり前だったような時代。現代とは、背景がまったく違います。
私自身、地方公務員から(起業を経て)民間企業へ転職しました。
私としては、一般論として「民間→民間」に比べれば「公務員→民間」の方が厳しいと言われることはわかりますが、厳しいからと言って決して「使いものにならない」ことなどはないという考えです。
例えば、コンプライアンス面で高い教育を受けてきた公務員は、その面で高い能力を発揮することもあります。
それでは、「厳しい」と言われる理由は一体何なのでしょうか。
よく言われる3点について、考えてみたいと思います。
①利益追求の経験がない
組織としての利益追求の経験は、地方公務員にはありません。
地方公務員の使命である「公益追及」は、場合によっては「利益追求」と相反する位置関係にあります。
例えば、利益追求が最優先なら、自治体病院で救急や小児科などはやらないでしょう。道路や下水道も、まちの中心部にしか作らないでしょう。災害対策にも本腰を入れないかもしれません。
民間企業にとっても、最近では「社会貢献」を意識する傾向は高まっていますし、地方公務員も「コスト意識」の部分については教育されます。
それでも、組織としてのマインドが違うので、組織人としての教育のされ方も異なってきます。
ですから、『転職直後』に評価されるなら、この利益追求のマインドが備わっていないことをマイナスに捉えられて「厳しい」と言われることはあるかもしれません。
しかし、転職した後に、そのマインドを改め、「利益追求」を求める意味を学び、実践し、体得していくことはもちろん可能ですし、そうして活躍している方もたくさんいます。
つまり、民間に転職した後からでも十分に会得できる部分なんです。
注意点としては、仕事の「優先順位」が大きく違う場面があるので、気を付けましょう。
例えば、ビジネスチャンスを迎えている瞬間に、クライアントの「キーマン」と会う(アポを取る)ということなどです。民間ではこういった利益につながる行動は、最優先です。
このような時に、利益には直接つながらない「報告書」を仕上げてから…などとやっていると、民間では怒られてしまいます。
経験は、一朝一夕に得られるものではありませんが、要は「マインド」と「優先順位」の問題ですので、実務の現場で学んでいけば、短期間の経験でもクリアできる部分です。
②求められるスキルが違う
地方公務員にない(足りない)のは、マーケティングやプレゼンテーションのスキルです。
確かに、地方公務員がこれらの教育を受ける機会はほぼありません。求められることがないからです。
事務的なスキルに関して言えば、当然職種にもよりますが、基本的には求められるものに大差はありません。例えば、エクセルやワードのパソコンスキルや、接遇スキル、文章能力等。これらは公務員だろうが民間だろうが求められる、最低必要なスキルです。
マーケティングに関しては、公務員全般の弱い部分と言われても仕方ありません。まず「価値のあるサービスを提供して利益を得る」という使命がないですから、学ぶ必要も教える必要もありません。
パワーポイントを使える地方公務員はいても、根本のプレゼンテーションのスキルがどうかと問われると、民間でそれを鍛えられた方には到底かないません。
しかし、転職先の民間企業が求めるものが、このスキルだけということはありません。
例えば、コンプライアンス(法令遵守)に関しては、近年では民間にもその意識の高まりが見られ、社員研修にも力を入れる向きがあります。この点については、やはり公務員の方が高い意識とスキルを持っています。
このスキルは、民間の社員はまだまだ成熟していないと感じます。教育の歴史が浅いからです。
その点、地方公務員の場合には、一つ一つの仕事に法的な意味があり、それを理解しなければ対外的に説明できない背景があるため、法律を読む機会は民間の社員よりも圧倒的に多い。だから、法律の読み方を知っている地方公務員はこの点では絶対に強いんです。
要は、地方公務員の経験が活きるスキルもあるということです。自信を持ちましょう。
転職先が、こういった力を含めて求めているとしたら、当然チャンスが出てきます。
さらに、マーケティングやプレゼンテーションのスキルについても、①の利益追求のマインドと同様に、実務経験を積むことによってクリアできるものです。
③民間側が経験を評価しない
そもそも、民間の社会人採用試験において、履歴書を見た時に「地方公務員」の職歴をまったく評価してくれないということは、残念ながらあると思います。
「厳しい」と言われる理由の一つが、これだと思います。
基本的には、民間は「物やサービスを売って利益を得る」世界です。転職する業界にもよりますが、物やサービスを売るには、営業でも、商品開発でも、それなりの経験が必要です。
民間が転職者を採用するにあたり、その世界を知っている人と、知らない人が天秤にかけられれば、知っている方の人が採用されることになってしまうでしょう。
中でも特に、地方公務員はビジネスマナーがなっていないという意識は根強いかもしれません。
私も、民間に転職した時、40歳を過ぎていましたが、恥ずかしいことに身だしなみから言葉使いの節々まで指導を受けました(^^;)
決して人前に出れないような恰好をしていたわけではありませんが、「人に気をよくしてもらう恰好」、「人に信頼を与える格好」が必要ということでした。
例えば、会社の看板を背負って外に出る以上、スーツの着こなしや、身に着けるもの(腕時計、革靴など)にも気を遣ったり、会話中の言葉にも一つ一つ気を付けるべき点があったりします。
地方公務員でも自然にできている人もいると思いますが、大部分の方は不得手かもしれませんね。
ただし、この民間使用のビジネスマナーも、努力次第で短期間で身に付けられるものです。
まとめ
地方公務員は民間では「厳しい」と言われる理由は以下の3つです。
①利益追求の経験がない
確かに利益追求を優先することは地方公務員にはないマインドですが、短期間で十分に会得できます。
行動の「優先順位」を民間仕様に変えていく必要があります。
②求められるスキルが違う
マーケティングやプレゼンテーションのスキルは足りません。転職後に実戦で学ぶことが必要です。
逆に、法律を読むスキルなど、地方公務員として培ったスキルを活かせる場面もあります。
③民間側が経験を評価しない
評価してもらえないこと自体が「厳しい」という一般論につながっているだけです。
まずは、「ビジネスマナー」の意味からとらえ直すことをおすすめします。
厳しいかどうかは、個人個人、ケースバイケースによって違います。
民間側が、もし「超絶即戦力」を求めている場合には、厳しい面があるかもしれません。
しかし、現在は民間側も人材確保に苦しむ時代ですし、中途採用者が地方公務員出身であっても、それくらいのことは最低限教育してくれます。
とにかく優秀な人材でさえあれば、欲しいと思ってくれる会社はたくさんあります。
地方公務員出身だからといって門前払いにされるようなことは、ないです!
コメント